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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
こうして坐っているところへ風が吹きわたると、松の匂いがします。一帯の平地だのに、ここは本当に高燥で、この空気といったら。暑くて、軽くて、松やにの芳ばしさがあって、体じゅうの皮膚がよろこびを感じます。様々の空想をいたします。わたしはこんなに思うけれども、あなたにとってはやっぱり虹ヶ浜あたりの空気の方が、体に快く吸収されるのだろうかしら、などと。こちらの地方の自然には、北方の荒いやさしさ、情熱というようなものがあって、西の方の明媚さとちがって居ります。こんなこともふと思います。ああいうなめらかさ、明媚さは、もしかしたら男らしい人の感覚を柔かく休めるものかもしれないと。こちらは、云わば炭酸水の泡のような刺戟があって、それは却って、私のような性質の女に快いのかもしれない、などと。又ちがった表現をすると、あっちの自然は、通俗的なまでに文学的完成してしまっていますが、こちらは文学以前の自然だとも思えます。精神を型にはめる安定な自然でなくて、どこかで常に破調があって、先へ先へとひかれてゆくような自然ね。
さあ、おけさ婆さんが、お墓参りの花をもって来たわ。これから一寸お盆着に着かえて(!)お墓詣りいたします、家じゅうそろって。