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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

自分はすこし大きくなって以来、いつも生きるに甲斐ある生きかたをしたいと思いつづけていました。それは野心その他とまるきり違ったもので、感覚として内在するようなものだったのね。それにつき動かされて、より新鮮な空気を求め求めて来たわけですが、二日のかえり、プラタナスの下をゆっくり歩いて来ながら、わたしはその自分の願望が、勿体ないように叶えられているのを感じました、自分自身の力には叶わない望みが、叶えられて与えられてあるということに驚愕しました。自分というものは、ごく厳密に云って、願う丈の生き甲斐を創り出してゆくには、ちいと力が不足して生れついていると思います。勇気が足りないのか、頭の堅木のように美しい木目が荒いのか、ともかく残念ながら、私に出来ることは、非常によく感じ、理解し、それによって、そこから何か人間的集果を生み出してゆくことだと思われます。女というものが、そうなのかしら。文学的な素質というものが、そういう特長をもっているのかしら。いずれにせよ、わたしは、創られた新しい頁の価値にうたれ、それに導かれ、その価値と美を語ることによって、自分も一つの何か醜からぬものをこの人生に寄与してゆくもののようです。