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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
門、古九谷など、どれもみんな活々とした色調の愛くるしさのこもったものを選んで居ります。骨董くさいところは一つもなくて、マア人間て、こんな模様を考えて皿に描くのね、と想像力というものをいとしく思うようなものが多うございます。はじめて見るようなものもあります、これらはうちの蔵を出て、どこかに散らばり、中のいくつかは空襲もまぬかれることが出来るでしょう。うちの蔵払いというよりも、何か出発のような晴々としたうれしささえあります、父という人はそういう人だったと、深く思います。一月三十日に亡くなって、二月のあの大雪の第一日、粉雪が市ヶ谷へ戻る私の髪にふりかかりました。幅のせまい着物に代って、寒いのと甚しい疲労とで夢現に坐っていたとき、二月の雪の霏々とふる旺な春の寒さは、やっぱり私に不思議な感動を与えました。悲しさの中から一つのはっきりしたよろこびの声が立ちのぼってゆくようでした。雪の面白さ、元気さ、陽気さ、それはそのさっぱりしたところと共に、父のもの、と思われて。
こうしてあぶないところを、うちで灰になるところをまぬかれて、どこかに出立してゆく皿や花瓶やなつめたちは、自ら身にそなえた趣にしたがって、ふさわしいどこかに落付くことでしょう。