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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

けれども、あれは、家康から三代経って家光という、封建確立時代の代表的智慧で、その下情に通じ、下世話にくだけた機智で、大名に対する商人の苦情を封じるところなど、むしろ憫然たるものがあります、智慧の気の毒さみたいな。それに、天草の乱のときの原城攻撃の態度、ぬけがけ手柄をしようとする、その他、属僚的機敏さはあっても、井伊や北條その他の気骨、大義、骨格を欠いています。人間の大事な礎をかいています、それらのいろいろの逸話を対比して、即効散的人物、重宝人物、何かにつけて「あの男を出せ」的人物が必ずしも人物の優秀を語らないことを書きたかったのです。今の人は、謂わば上の石は右へまわり、下の石は左へまわる間に、はさまれているような暮しが多く、今日の内容づけによる範囲でも常に大義と日常やりくり、うまくやることとの間にすりへらされて妙なキョロキョロした人間が出来つつあります。だから書きたかったのです。けれどもおっしゃる通りかもしれません。小さい書きものに終っては、はじまりませんからね。書いた内容さえ言葉足らずで。読書余録として、いろいろそういう読書の感想がのこされるのとはおのずから別ですから。