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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
そこへ友達も来て、何か働いていながら話もし、本でもよんでくれていいところだと、どんなにいいでしょう。そして女の馬鹿になるのが防げます、湿っぽい、面白さのないところで一人でポシャポシャやっているとき旦那は火鉢に当って談論風発で、十年経つとあわれこれが女房かとなってしまうのね。御用ききというものが来ないのは至極ようございます、今の暮しは一日に七八人のお客ということもないし、疲れすぎないコツを会得して、やれそうです。眠り工合がちがって深く深く眠ります。きのうは傘さして菜っぱをとりに湯島一丁目まで行ったら、私なんか力のないこと、一貫五百匁ほどの包みでフーフーで咳が出る位(ドキドキするから)でした。自転車にのれたらと思います、でも目が不確かで速力が不安なうちは駄目ね。
あなたが家事衛生のこと、おっしゃっていましたが、こんな実習がはじまろうとは思って居りませんでしたね、お互様に。こうやって見てつくづく自分もいろいろの生活で、こなせるようになって来ていると感じ直します、つまり苦労して来たのだな、と思いかえすようなところがあります。そしてそれは自分の実力ということで感じられるのはうれしいと思います、女中がいない、忽ち上ずってしまう、という生活力では情けないわけですから。