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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

やけ土はアルカリが多くなってよく出来るかもしれないことよ、但し蒔く人間がのこればの話。

天気がうららかとなって、一つなやみが出来ました。まだ眩しいのです。光線よけをかけなくてはなおりそうもないの、痛い位だから。傘もささないと苦しいし。駄目ですね、キラキラした初夏の大好きな美しさにあんな眼鏡かけるなんて、しゃくの極みです。あの眼鏡ごらんになったわね。嫌いでしょう? 眼のニュアンスは眼鏡かけている丈でさえ損われている上にね。〔略〕

この間護国寺のよこの、いつも時局情報買っている店でヴェラスケスを見つけました。ヴェラスケスの自画像があってね、それはゴヤのあの畏怖を感じる慓悍な爺ぶりでもなければ、セザンヌのおそろしい意欲でもないしレンブラントの聖なる穢濁の老年でもなく、いかにもおとなしくじっと見てふっくり而もおどろくべき色調の画家らしい自画像です。

ヴェラスケスの絵はたのしい絵ですが、ウムと思うのはゴヤです。ゴヤはヴェラスケスが描いたフィリップ四世のデカダンスの後をうけて全く崩壊したスペインに、愛着と憤怒とをもって作品をのこした画家で、あの時代として男の中の男というような男ね。