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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
12 一九四五年(昭和二十年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页
何年ぶりかで零下何度の冬を迎えるのはたのしみです、そちらのマローズはどんなでしょう、あんなに太陽が照ってキラキラかしら。
自分のいるところに自分のこころもあるというのはいいこころもちよ。わたしはもう十何年か、東京を体がはなれているときはいつも心ばかりそちらにのこっていて、しんから楽しい旅行などしたことがなかったわ。これからは、そういうことがなくなりましょうし、そこの辺を旅行したにしろ、丁度子供が外を歩いて来てああちゃん牛がいたのよと報告するという工合に、ここはこんななのよ、マアこっちはこうよという風に話せるでしょう、そしてそういう話もふむそうかとおわかりになりましょうしね。いいわ。そちらは、暗く重い東北よりもわたしの性に合います、わたしのジャガイモ好きから丈でも。わたしを育てたのはゲルンジーの乳牛ですが、ゲルンジーは今も居りましょうし。あなたが全く新鮮にそこの環境を吸収していらっしゃる様子を想像いたします。そしてさぞ感想は多くその共感を求め表現を欲していらっしゃることでしょうと思います。万葉の歌人たちは「古今」の歌人と比較にならないほど旅を大きくして居ります。