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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

12 一九四五年(昭和二十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页

青空文庫

ああ原稿紙もやけなかったのだわ。それら仕事の道具を両腕にかき抱くようです。

経済事情が様々に変化をうけることでしょう。林町もここも国府津もやけこそしなかったけれども、一人の人間がそれ丈の家の税は払い切れなくなるのではなかろうかと思います。わたしの事情も(経済)変りましょうし、わたしの小さい小さい財布ではすべてがいきなり底の底までつき抜けてしまうけれども、今のところ既定の方針を格別変えず、網走へ行くことを中心に考えて居ります。こちらは何の話もする人なしきく人なし、山の風雨だけでしたが、東京はいろいろもっとで切符のこともなかなかはかどらないのではないでしょうか。待ち遠しさはひとしおです。ここの周囲が農民や教師が主で、急に生活事情の激変する人がないため、太郎なんかのためにはいい場所と云えると思います。食糧事情があるし、咲や子供たちは当分(何年か)ここに暮しつづけるでしょう。国は生計の必要から少くとも何かしなくてはいけないでしょう。こうやって寝ころがってはいられますまいから、これはいずれ上京するでしょう。わたしのことは、ともかくお目にかかった上でのことで、今のわたしにそれ以外のプランはありません。