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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

04 一九三七年(昭和十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,810 字 · 225 页

青空文庫

この点も春にはぼんやりしていた。恩給はすっかりお手元に戻っているのですが。

あなたが全体の事情に対して正当な判断をなさることはわかっているから、私はこの手紙はこれでおやめにします。

猶おばさんからのお手紙で黒檀の仏壇は、かねておじさんが欲しいと云っていらしたものだそうで、大変およろこびでよかったと思って居ります。冨美ちゃんからお礼の手紙つきましたか? お体を呉々もお大事に。だるいのに体をお動かしになるのは大変だと深く察します。私も三日ばかり工合わるくしましたから猶々。

七月二十六日夜 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

七月二十六日  第二十一信

きょうあれからかえって、すっかり安心をして、喉がかわいてかわいて。たくさん番茶をのんでトマトとパンをたべて眠りました。私はいつも永い仕事を一つ終ると本当にのうのうして眠るのに、今度はお目にかかったとき、沢山の気にかかることがあったので、珍しくよく眠らず、疲れがぬけなかったので病気したりして。

昼ねから醒めて、体を洗って、新しい仕事を考えながら二階で風にふかれていたら、不図思いついて狭い濡縁の左の端れまで出てみたら、そこから四つばかりの屋根を越してあなたも御存じのもとの私の家の二階の裏が見えました。