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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

04 一九三七年(昭和十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,810 字 · 225 页

青空文庫

それでも昨夜私が何か云ってふざけたら皆笑い出して、お父さんも、一緒に大笑いしていらしった。気分はやはり非常におだやかです。お母さんが、顕治の知っている頃のお父さんじゃったらどんな我儘云うてじゃろと思っているだろうとおっしゃっています。おとなしい、いろいろ気になさらない。すこし、お母さんや内輪のものにはカンシャクをお起しになる位のことです。御気分が平らなのは何よりです。きょうこれから野原へお墓参りに行って来ます。野原の家の方は四百五十円ばかり不足しているかぎりで家と土地とが十分のこる由です。かり手がついて来るから家は小学の先生にでもかして、おばさんや冨美ちゃんたちは富雄さんの方へ引うつって世帯を一つにしようという計画とみえます。富雄さんのこれまでいた店が駄目になって(つぶれた)日米証券へ入っている様子です。

こちらもずっと平穏にやっていらっしゃいます。大していいということはない。やはり不景気だそうです。でも手堅くやっていらっしゃるから。――隆治さんは今年は二十歳なのですね。この六月かにケンサがあるのね。私は間違って一月に入営かと思って居りました。春のとき何だかそんな風に間違って覚えて来てしまったのです。