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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

この小説は、パリのありふれた町のどこかを思い出させます。歩道に向って、下は雑貨屋というようなひろいガラス窓の店。その二階か三階かの羽目に、横長く黒地で金文字の何々裁縫店という看板が出ている。のぼってゆく階段は、下の店の入口とは別の横についていてね。歩道の向う側から見ると、型人形が立っていたり、ミシンを踏んでいる女の肩から上のところが見えたり。二三軒先に小さいカフエがあって、鉄脚の白い小テーブルと碧と黄とでぬった小椅子が往来に出ているというような街すじ。歩道には新聞紙の屑が落ちてもいる。木曜日とか金曜日とかに市が立って、女の魚売りがゴム引布の大前掛をかけ、肱までのブラウスで、片手を腰に当て、片手をのばして大きくひらいたり握ってふったりしながら、ケンカのようないい威勢であきないしている。そんなような街。

アパートにしろ、パリの古いアパートは階段が暗くて狭くてぐるぐるまわっていて、何百年前に建ったときから日の目は見なかったというのがどっさりあります。

ソルボンヌのそばあたりには古い建物が非常に多くて、その便所が、水洗には改良されているが、コンクリートの踏石(レンガ位の大さ)が左右にあって、あとは流し口のついた凹みだけというのを見たことがありました。