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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

こんなこと云っていても、結局誰もなくて、やっぱりひとりになって、又馴れてしまうかもしれず。あなたは、大して気にして下さらないでいいのです。私はあなたにこうやって、ああだのこうだのということ云わずに居れず喋るのですから。そうかいときいていて下すって、それで十分。

御愛読の詩集、このごろはどんなところの光景でしょう。先達ってうちは、何か詩集を閉じて、枕のわきにおいて、大きい目をあいて天井を見ているような心持でしたが、この節は折々パラパラと風で頁がめくれます。一寸そこを見るとね、樹蔭に小さき騎士が横になっているところが描かれています。眠っているのか、ただ横になっているかよくわからないからでしょう。泉の仙女は、気づかわしさとやさしさとの溢れたおとなしい身ごなしで、すこし首をのばす姿勢で、そーっと小さき騎士の方をのぞいて居る光景。あたりの空気は初夏の青々とした、そして静かなやや曇り日の昼間。小さい騎士の息づかいと泉の仙女がすこしつめたような工合でしている息とは、青葉の一枚一枚に静けさのとおっているような、あたりのやや重い空気の中に一つとなってきこえます。小さい騎士はどんなにして目をあけるでしょうね。