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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

家じゅう風をとおし、すっかり大掃除をいたしました。家じゅうしめっぽかったり何かするところのないさっぱりした気分で、例の茶の間に坐って小説よんでいたら、青い八つ手の葉かげが、二月堂の机(黒塗りでふちに赤い細い線の入っているの)の上に青くちらついて、ちょっと、いらっしゃらない? と云いたい心持がせき上げました。風で風鐸は鳴っているし。私は、紺絣の着物をきてその座敷にいるのです、半幅帯をチョコナンとしめて。

頬杖をつくようにして待っていたけれど、あなたはいらっしゃらないから、今度は私がそちらへ行きます。紺絣のきもので、一寸前かけかけて、青っぽい廊下草履はいて。そこへ行ってふとんにすこし膝をかけるようにして坐りこんで、さて。私は何となしあなたの額や髪をさわって、余り大きくない声でうかがうでしょう。どう? フム。そして、いつもの笑いかたでお笑いになる。私もそういうあなたの笑い顔にこたえるいつもの顔ですこし笑ったような顔になって、それから黙ってお互にしばらく眺めていて、やがて私が喋り出します。きょう、御飯、どんなでした? そう? それなら、御飯にすこし食塩をかけてあがって見たらどう? おむすびはさっぱりしてうまいでしょう。