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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
大分先達ってうちは、このまま東京にいてしまおうという気もおこしたらしいが。何か本ひっくりかえして「イッヒビンカツレツ」と云っている。これは、この間大笑いした笑話。さるドイツ語の先生が伯林へ参りました。とあるレストランへ入りました。給仕の男が、丁寧にききました。「旦那様、何を召上りますか。」すると先生は自信をもって悠々答えました。「イッヒビンカツレツ。――」給仕は、まことにこれは解せぬという顔で、「何と仰云いました。」とききかえしたが、先生やはり泰然と曰ク、「私はカツレツである」と。カツレツという料理の形や材料からこれは実に可笑しい。英語で電話かけようとして、ニューヨークのホテルの電話口で「イフ if イフ」と云ったというのも、笑わずにいられないけれど。もし、もしというわけでしょう、森代議士のつくった実話です。
寿江子は箱とトランクをかかえて下へゆきました。「お姉さま、まだ?」とよんでいる。お金の計算があるのです。ではそれをやって来ますから。そして早くねなければ。忘れず寿江子のおいてゆく服の中へ虫よけのホドジンを入れさせなければ。では、一先ずこれで。