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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

宮城という人の箏はきいてよいものの由です。こういう会でもね、宮城という人は自分のうちで開かせますが、自分はひかない。挨拶だけをする。ね、気質わかるでしょう? 利口さも。伍してはしまわないのです。おたいこならざるところを示すテクニックを心得ている。十分ひきよせつつ。フムというところがありますね。

寿江子が今かえって来て、二階のこのテーブルのわきの戸棚の前でフーフー云いながら荷物こしらえはじめました。明日熱川へゆくのです。「ねえお姉さま、つくづく悲観しちまうわ。」「何さ。」「だって日に日にパンパンなんだもの。果なくパンパンなんか悲観だわ。」パンパンというのはふとるパンパン。寿江子はこの頃、元あなたがはじめて御覧になった時分にそろそろ近づきつつあります。やせるにやせられない性なのね、うちの一族は。「これははいてくでしょう(くつ下のことです、きっと)。これはおいてくでしょう。」とひとりごと云いながら、赤い服着てことことやって居ります。又熱川で日にやけて、ノミにくわれたあとだらけになって暮すのでしょう。山羊ひっぱって歩いて。寿江子も今年の秋からは勉強しはじめるぐらいに体が戻って来かかっているので、夏を仕上げにつかおうというわけです。