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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

10 一九四三年(昭和十八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页

青空文庫

まして況んや万年筆を手に取らせなければならない仕儀に至っては。

泰子の病気のためアアチャンが疲れて何年もないことに、温泉に行きたがっています。伊東辺を御存知? 私は知りませんが、この頃は大抵の処が軍人さんのための療養所となり、鵠沼辺では普段人の住んでいない別荘をどんどん徴用しているそうです。開成山の奥に兵営が出来、家の前の池の辺で伏せ、撃て、とやっているのを、太郎達は一日付いてまわっているらしい様子です。それは去年のことでしたが。私が何処に行くかと云うこともそんなこんなで軽率に決まらず、山のなかの温泉の静かな処を探し出さなければなりません。そして野菜の食べられる処をね。スエ子はろくに青い葉っぱを食べられなかったのよ。

弘文堂から原著者は判りませんが除村吉太郎訳で『ロシア年代記』と云う中世の歴史が出るらしく、あなたも興味がおありになったら買いましょうか。世界の中世史として高く評価されるものだと云う広告です。

今年はこれからが寒そうだから、くれぐれも御大切に。風呂のボイラーがやっとなおって、明日は大楽しみです。(手がかじかんで妙な字が書けました、あしからず)