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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
それだけ確信が出来たのね。何年もかかり、生きかえし死にかかりしているうちに。バルザックのこと、この間一寸話していたでしょう? そして今思うのよ、バルザックなどは或意味で、今なかなかよめるのだ、と。はっとして、勝った勝ったと自分のうちに音楽をきいたのは、ツワイクの「三人の巨匠」ををよみかけているときです。私は自分の芸術家が、モラリストをしっかり自分のなかにのみこんだと感じたの。それが今までのようにわたしの横に出しゃばっていて、うるさく其でいいの? 大丈夫? と啄を入れなくてもよいと安心してじっと私の感受性と瞳の中にしっかりはまりこんだことを感じたのです。
これは人を愛していたことを、はっと心付いた瞬間の心持と何と似ているでしょう。いつかしら日夜の間に心にためられていて、しかしその間には心付かず、或る瞬間俄に天と地とが初めてわかれたときのような新しい駭きで其を発見し、発見したときはもうすっかり其にとらえられている自分を見出す、その工合が。そしてブランカは経験によってこう判断するのよ。こんなに自然に、ひかれつつ抵抗するというような感じ全くなしに、ひきよせられ捉えられている自分をじかに発見した以上は、もうまがいもなしの本ものだ、と。