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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
渡しますから。そして、どうか兄さんとして、温情と道理と勇気をもった言葉を与えてやって下さいまし。寿の生活態度で私の気に入らないところをいろいろ見ると、環境から、その反射みたいなところが沢山あって、気がつよいようで弱いから、自分の暖かさがヒイヤリしたものにさわると、引こんで自分もつめたくなってしまうのね。其関係で状態は悪化するのです。わたしのように自分をむき出して、おこったり親切したりではないのね。寿が何か云うときの皮肉さ、冗談らしく云われる侮蔑は、全く針のようよ。はっと思うことがあります。それをそう感じるような人には寿は決して云うわけもない、というわけです。
こういうことを考えても、侮蔑や憎悪にさされて暮すより、一人での方がずっといいわ、自然なだけでも。家庭というものは、全くピンからキリまでありますね。気心のわかった信頼にみちた、そして人間の向上する欲望をひとりでにもっている家庭というものは多くはないものなのかもしれないわね。親切さのあるのさえ。
きょうはつづけて、もう一通かくのよ。それでは淙々としたせせらぎの鳴るのを聴きましょう。霜のおりた、松の葉のしげみの下に、伊豆は、冬でもりんどうの花が咲いて居ります。