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たまとりものがたり
玉取物語
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第二十四号小説二十人集」1951(昭和26)年10月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,495 字 · 19 页
かかる病なん、終にその痛むところ、蓮の花の開くがごとく壊み崩れて腐り行けば、命幾日もあらずというを聞くにも、今は幾許ならずその界に至らんと思えば、いとど安き心なし。云々とは、殿の御日記の一節であった。
閏二月のさる日(二月八日)、将軍家には典医領伊東玄朴をもって御見舞になり、翌日、奥医者並大槻俊斎と戸塚静海を遣わして蘭方の診断させた。同じ蘭方といっても、大槻は江戸仕立、戸塚は長崎仕立で、診立ての違いはあったが、少しも早く病根を摘出しなければ、生命の危殆に及ぶだろうというところでは同じであった。
ふぐり玉とは、そもいかなるものかというに、是に就いては「たあへるあなとみあ」と、※(濁点付き平仮名う、1-4-84)えさりうすの「解剖学」に精細に記述されている。即ちそれは扁平、楕円形の肉質であって、内面、外面、上端、下端、前縁、後縁を有つ。重さ、大約して十五ガラム、長さ一寸三分位、幅一寸、厚さは七分ほど也。縦軸は外前方に向い、左のふぐり玉は右よりも稍々低位にあるが通例なり。ふぐり玉の表は靱く平滑なる白色の膜にして、その下に血管膜と縦横の中隔に隔てらるる数多の葉あり。