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げんだいにんじゅつでん

現代忍術伝

坂口 安吾

「講談倶楽部 第一巻第八号~第二巻第三号」1949(昭和24)年8月1日~1950(昭和25)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,446 字 · 155 页

青空文庫

ツル子はニッコリ笑ったが、顔がほてって、あかかった。

「お父さん! ごめんなさい。そうお呼びしましたわね。三日間箱根で」

菊松は目をみはった。ああ、覚えている。はじめて見た時は、箱根へでかける朝だ。物も云わず、チョコレートをつめかえていた。宿屋では、彼にモーニングをきせてくれた。モーニングをぬぐ時はドテラをきせてくれるために、うしろに立っていた。そして、お父さんとよんだ。

だが、憎むべき天草商事の一味であることに変りはない。脱出に失敗して、ただ一人、とり押えられた悲しさを思いだす。忘れられない悲しさだった。そのとき、あの連中は、この娘も、後をも見ずに、彼を捨て、逃げてしまった。恨みの後姿が、目にしみているのだ。

ツル子は見つめられて、泣きそうになってしまった。

「すみませんでした。お恨みをうけるのが、当然ですわ。私たち、自分の功名にあせって、一人のお方に悲しい思いをかけることを忘れていました。それが地獄の責苦よりも悲しい苦痛だということを……」

「ツル子さん。よして! あなたは天使です。どうして、あなたが、悪いものですか。逃げおくれた正宗の運が悪るかったのです。