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りそうのおんな

理想の女

豊島 与志雄

「新小説」1920(大正9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,162 字 · 77 页

青空文庫

その様子と、「はい。」という返事の落付いた調子とに、私は赫となった。

「取っといで!」と私は怒鳴った。

秀子は黙っていた。

「取っといでったら!」と私はまた怒鳴った。

秀子は眉根をぴくりと震わしたまま、じっとしていた。私はじっとして居れなかった。枕を取るが早いか、それを秀子めがけて投げつけた。枕は的を外れて、縁側の障子に当り、障子の中にはまっている硝子を一枚壊した。その物音にみさ子が泣き出した。秀子はそれを抱き取った。私は眼をつぶって仰向けに寝転んだ。

硝子の壊れた音を聞きつけて、台所からはるがやって来た。秀子ははるに硝子の破片を掃除さした。そして、はるが向うに立ってゆき、子供が眠ってしまった後、秀子は私の方へ坐り直して云った。

「あんな野蛮なことをなすって、もしみさ子が怪我でもしたらどうします!」

私は飛び起きて、歯をくいしばった。掃除がすみ子供が眠ってしまってから、冷かに真剣に談判を初めたのだ。彼女はまた云った。

「卑劣な! 自分に恥じなさるがいい。」

その言葉を聞いて私は我を忘れた。「自分に恥じるがいい。」とは、私が彼女を責むる時によく用いた言葉である。