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りそうのおんな

理想の女

豊島 与志雄

「新小説」1920(大正9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,162 字 · 77 页

青空文庫

彼等二人の話を聞いていると、私の心へも清澄な光りが射してきた。自分も勉強したような気が起ってきた。そしてすぐに家へ帰った。然し、家の閾を跨ぐと、私の心はまた陰鬱になるのであった。

或る日――その午后に私はまた秀子と喧嘩をした。初めは何でもないことだったが、いつもとはだいぶ調子が異っていた。みさ子が少し風邪の気味だった。熱を測ると七度一分あった。「大丈夫でしょうか、お医者に診せないで、」と秀子は云った。「七度二分までは発熱と云えないそうじゃないか、」と私は答えた。暫くすると、「大丈夫でしょうか、」と秀子はまた云った。「大丈夫だ、」と私は事もなげに答えた。そういう問答の後に、私は縁側の障子を開け放って、南を一杯受けた日向に寝転んだ。彼女は私の不注意を責めた。私はうっかり一二言答え返した。彼女はすぐにつっ込んできた、「子供の風邪がひどくなったら、あなたが責任を負って下さるのね!」私は一寸あわてた。「でたらめなことを云うな、」と投げやりの調子で答えた。彼女は私の顔をじっと見た。「あなたは、この頃ちっとも子供を可愛がりなさらないのね、」と彼女は云った。云われてみると多少は当っていた。