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りそうのおんな

理想の女

豊島 与志雄

「新小説」1920(大正9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,162 字 · 77 页

青空文庫

そして夕方、座敷の隅に眠ってるみさ子を見出した時、私は泣きたいような心地になった。私はその側に惹きつけられた。みさ子は、片手を肩にかついだ恰好に布団から出して、すやすや眠っていた。私の気配を感じてか、夢をみてか、それとも無心にか、乳を吸う形に唇を動かした。その小さな濡った唇に、私は自分の唇を持っていった。それから俄に身を引いて後ろを顧みた。誰も居なかった。ああ私は誰に気兼ねをしたのであったか! 私はまた自分の口を、子供の柔かな頬へ持っていった。それから額へ唇をあてた。香りのある温い子供の肉体と心とが、私の唇に感ぜられた。我知らず涙が出て来た。布団から出てる手をそっと入れてやろうとすると、みさ子は眼を覚した。私はそれを胸に抱き上げてやった。なおむずかるので、立ち上って歩いてやろうとした。一足歩き出すと、室の入口に秀子が立って、じっと私の方を眺めていた。私は眼を外らした。秀子は歩み寄ってきた。私達は無言のうちに子供を受け渡しした。その後で私は、自分が如何に卑屈であるかを感じた。私は両の拳を握りしめて、秀子の方を睥みつけてやった。彼女は其処に坐って、子供に乳を含ました。