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びわでん
琵琶伝
泉 鏡花
「国民之友」1896(明治29)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,081 字 · 24 页
」
「なりましねえ。麻畑の中へ行って逢おうたッて、そうは行かねえ。素直にこっちへござれッていに。」
お通は肩を動かしぬ。
「お前、主人をどうするんだえ。ちっと出過ぎやしないかね。」
「主人も糸瓜もあるものか、吾は、何でも重隆様のいいつけ通りにきっと勤めりゃそれで可いのだ。お前様が何と謂ったって耳にも入れるものじゃねえ。」
「邪険も大抵にするものだよ。お前あんまりじゃないかね。」
とお通は黒く艶かな瞳をもって老夫の顔をじろりと見たり。伝内はビクともせず、
「邪険でも因業でも、吾、何にも構わねえだ。旦那様のおっしゃる通りきっと勤めりゃそれで可いのだ。」
威をもって制することならずと見たる、お通は少しく気色を和らげ、
「しかしねえ、お前、そこには人情というものがあるわね。まあ、考えてみておくれ。一昨日の晩はじめて門をお敲きなすってから、今夜でちょうど三晩の間、むこうの麻畑の中に隠れておいでなすって、めしあがるものといっちゃ、一粒の御飯もなし、内に居てさえひどいものを、ま、蚊や蚋でどんなだろうねえ。脱営をなすったッて。もう、お前も知ってる通り、今朝ッからどの位、おしらべが来たか知れないもの、おつかまりなさりゃそれッきりじゃあないか。