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せいとしとのきろく
生と死との記録
豊島 与志雄
「帝国文学」1918(大正7)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,961 字 · 39 页
余りに突然な病気だった。「初めからいけないという気がした……」と芳子は云ったのだった。
重苦しい気分のうちに、私は一時間ばかりうとうとした。眼を開くとじっとして居れなかった。私はすぐに家を飛び出した。室の鴨居に懸っている堯のちゃんちゃんが私の眼の底に残った。
私は暫く外を歩き廻ってみたかった。然し何時の間にか、私はすぐに病院の前に来てしまった。堯は同じようにじっと寝ていた。
「大丈夫かい。」と私は云った。
「え?」と芳子は顔を上げた。私の問いが、危篤の状態に居る堯に向って為されたのか、または生れようとする腹の児に向って為されたのか、彼女は惑ったのである。
「お前の方は?」
「ええ。」と云って芳子は初めて軽く微笑んだ。
夕方から、堯には人乳十瓦ずつ与えられるようになった。U氏が一番心配している嘔吐は全く無くなかった。
そうしてたとえ十瓦の人乳でも落ち附いてゆけば非常な幸いであった。夕方、食塩水の腸注入をやったが、殆んど吸収せられずに出てしまった。熱も脈搏も呼吸も増してゆくばかりであった。頭にはたえず氷嚢があてられた。額をも水で冷した。然し額の方は時々しか冷せなかった。