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せいとしとのきろく

生と死との記録

豊島 与志雄

「帝国文学」1918(大正7)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,961 字 · 39 页

青空文庫

芳子は黙って首肯いた。暫くして私はまた赤ん坊の顔を覗き込んだ。指先でその頬に触ってみた。絹のように柔かだった。

芳子は、何とも云えない引き締った笑顔をした。私はその時ふと日数をくってみた。堯の誕生日は一月十一日だった。丁度その日から今日まで二百八十日余りになっていた。吉とも凶ともつかない気持ちが私に湧いて来た。然し私は力強くなった。手をしっかり握りしめた。

私は次の室に来て暫くT君と話した。堯の容態をきいてT君はきっと唇を結んでいた。

「また来るから。」とT君は帰る時に云った。

「ああ。然し大丈夫だ。いけなくても今夜の夜中だろう。いや、あしたの夜明けが危険かも知れない。」と私は云った。

私はぼんやり室に寝転んで天井を見つめていた。

「あなた!」と芳子が云った。

「何だ?」

「早く病院の方へ。」

「うむ。」

私はそれでも暫くじっとしていた。そして十一時すぎに家を出かけた。

「今度帰って来る時は、堯を抱いて来るかも知れない、俥だったらそうだから。」

芳子は首肯いた。

「いいかい。」そう云って私は芳子の眼を覗き込んだ。「分るだろう。」

「ええ。」と芳子はきっぱり答えた。