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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

「松倉屋の前身を知っているかな?」

「抜け荷買いをしたとか聞き及びましたが」

「抜け荷買い、さよう、その通りだ。……で、異国の珍器の価値を、松倉屋勘右衛門は充分に知っとる」

「…………」

「それにお前に負けないほどに、好事家として有名だ」

「…………」

「五年以来松倉屋の様子が、何となく変に変わって来た。私の屋敷へ出入りをするごとに、私におかし気な謎をかける。……がまあまあそれもよかろう」

極東のカリフ様が歩き出したので、碩寿翁もつづいて歩き出したが、間もなく姿が見えなくなった。

小出信濃守の邸の前を通って、榊原式部少輔の邸の横を抜けて、一ツ橋御門を中へ入れば一ツ橋中納言家のお邸となる。

二人ながらその方へ行ったようである。

で、月光に照らされながら、松倉屋勘右衛門の邸の前に、首を傾げて佇んでいるのは、宮川茅野雄一人となった。

(今夜は実際いろいろの人から、色々の面白い話を聞いた。松倉屋勘右衛門と女房との話も、俺にとっては面白かった。それとはハッキリと云わなかったが、一ツ橋様のお話の中には、莫大の価値のある何かの両眼と、松倉屋勘右衛門との間には、何らかのつながりがありそうだ)