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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

その凄惨とした光景の中に、一本の線が空に斜めに、微動しながら浮いていた。上段に冠って敵に向かい、来い! 切るぞ! 斃すぞと、構えている茅野雄の刀身であった。空の一所に雲があって、野茨の花が群れているように見えたが、ゆるゆると動いて太陽を蔽うた。と、さながら氷柱のように、白光りをしていた刀身が、にわかに色を変えて桔梗色となった。が、それとても一瞬で、刀身はまたもや白く輝き、柄で蔽われていた茅野雄の額の、陰影さえ消えて炬のような眼が、眼前数間の彼方に群立ち、刀の切っ先を此方へ差し向け、隙があったら一斉に寄せて、打って取ろうとひしめいている、七人の敵を睨んでいた。

と、茅野雄はギョッとして、七人の敵から眼を放して、グルグルと四方へ眼を配った。

娘を小脇に引っ抱えた、醍醐弦四郎はどうしたか? ここに思いが至ったからであった。

十間あまりの左手を、向こうへ走って行く人影がある。

それこそ醍醐弦四郎で、依然として娘を抱えていた。

「待て! 弦四郎! 逃げるか! 卑怯!」

茅野雄は怒声を浴びせかけたが、浴びせかけた時には追っかけていた。

が、茅野雄が追っかけていた時には、七人の男達も追っかけていた。