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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

しかし、その事が宮川茅野雄の持ちつづけて来た好奇心を、急速に膨張させたのではなかった。

そんなように思われたばかりであった。

(どれ家へ帰ろうか)

で、茅野雄は歩き出した。

しかるに十町とは歩かないうちに、茅野雄の身の上に不慮の事件が起こった。

と、いうのは茅野雄は感付かなかったが、茅野雄が巫女めいた若い女から、自分の運命を買った時から――いや巫女めいた女から別れて、極東のカリフ様と碩寿翁との、後をつけて足を運び出した時から、一人の武士が足音を盗んで、茅野雄の後をつけて来たが、この時俄然と茅野雄の背後から、声もかけずに切り込んだのである。

茅野雄は蘭学の学究であったが、柳生流でも名手であった。で、背後から名の知れない武士に、俄然と切ってかかられた時にも、身を翻えして、刃を遁れた。

「誰だ!」と、まずもって声を掛けた。

「瞞し討ちとは卑怯な奴だ! 怨みがあるなら尋常に宣って、真っ正面からかかって来い! 身分を云え! 名を宣れ! ……拙者の名は宮川茅野雄という、他人に怨みを受けるような、曲事をしたような覚えはない! 思うにおおかた人違いであろう。……それとも、拙者に怨みがあるか※(疑問符感嘆符、1-8-77)」