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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

突然パンパンという音がして、すぐに続いて悲鳴が起こった。

勘右衛門が平手で京助の頬を、二つがところ食らわせて置いて、包物をグイと引ったくったため、京助が悲鳴を上げたのである。

こうして、松倉屋勘右衛門は、包物を手中には入れたけれど、持ちつづけることは出来なかった。

いつの間にどこから来たのであろうか、一見して放蕩で無頼に見える、三十がらみの大男が、勘右衛門の側に突っ立ったが、顔立ちがお菊とよく似ていて、好男子であることには疑がいがなかった。左の眼の白味に星が入っていて、黒味へかかろうとしているのが、人相をいやらしいものにしている。濃い頬髯を剃ったばかりと見えて、その辺りが緑青でも塗ったようであった。

お菊の兄の弁太なのであった。

その弁太が右手を上げたかと思うと、ポンと勘右衛門の小手を打った。

不意に打たれたことである。勘右衛門が持っていた包物を、取り落としたのは当然と云えよう。

「おい」と弁太が声をかけた。

「おい京助さんそいつを拾って、早く行く所へ行くがいいよ」

それから勘右衛門へ眼をやったが、ニヤニヤ笑うと揉み手をした。

「妹に話がございましてね、参上したのでございますよ。