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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

その時風采堂々とした、松平碩寿翁に逢ったのである。顛倒している眼から見れば、刑部屋敷の主人公に、碩寿翁の見えたのは当然と云えよう。

で、京助は恭しく、包み物と書面とを支え持っていた。

(松倉屋の女房の高価な品物? 勘右衛門が取り返そうと追って来た品物? 刑部屋敷の主人へ渡して、返辞と何かを下さるだろうから、それをいただいて参れという品物。……松倉屋は昔は抜け荷買いだ、異国の珍器なども持っていよう。刑部屋敷の主人といえば、そういう品物を売買する奴だ……松倉屋の女房は贅沢三昧で、むやみと金を使うという。……うむ、解った! それに違いない!)

碩寿翁には咄嗟に真相が解った。

俄然碩寿翁の眼の光が、貴人などにはあるまじいほどに、毒々しく惨酷に輝いたが、

「さようか、よろしい、受け取りましょう。返辞もあげよう、物もあげよう。……さあさあこっちへ参るがよい。どれ」と、手を延ばして二品を取ったが、とたんに片手をグッと突き出した。

呻きの声の聞こえたのは、急所を突かれた手代の京助が、倒れながら呻いたからであろう。

左右は貧民の家々であって、露路を挟んで立ち並んでいる。