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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

どこでござろうな? どこでござろうな?」

で、老人の答えを待った。

「はい」と老人はその言葉を聞くと、いくらか眉をひそめたようであったが、

「高山のお城下を中心にして、十里離れた地点と申しても、いろいろの里や郷があります。どの方角へ十里でござりましょうか」

(それ見ろ)と茅野雄は笑止に思った。

(お迎えに来たの案内しようのと、いいかげんのことを云っていながら、俺の行く先を知らないではないか。――どうやらこ奴らは悪者らしい)

しかし茅野雄は云うことにした。

「どの方角だか俺も知らぬ。ただし地名は丹生川平と云うよ」

――するとこれはどうしたのであろうか、老人の態度がにわかに変わって、一種の殺気を持って来た。

「丹生川平へおいでになる? どのようなご用でおいでになりますかな?」

「そこにの、俺の叔父がいるのだ」

「お名前は何と仰せられますかな?」

(何故こううるさく訊くのだろう?)

茅野雄は変な気持がしたが、

「叔父の名前か、宮川覚明というよ」と、一つの事件が起こった。

茅野雄のそう云った言葉を聞いて、老人が鬼のような兇悪な顔をつくり、従えて来た部下らしい十九人の者へ、何やら大声で喚いたかと思うと、十九人の若者が小刀を抜いて、死に物狂いの凄じさで、茅野雄へ切ってかかったことであった。