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せいしまんじどもえ
生死卍巴
国枝 史郎
「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页
と云っても相手を見ることは出来ない。深山の暗夜であるからである。焔は消えたが余燼はあって、五六本の松火が地上に赤く、点々とくすぶってはいたけれど、光は空間へは届いていなかった。案内の知れない山中であった。諸所に大岩や灌木の叢や、仆れ木や地割れがあることであろう。飛び出して行って叩っ切ろうとしても、躓いて転がるのが精々であった。
(こ奴らは、一体何者なのであろう?)
老人の祈りめいた叫び声によって、マホメット教徒であるらしい――そういうことだけは思われた。
(丹生川平の叔父の一族を、敵として憎んでいるらしいが、どういう理由から憎むのであろう?)
すると不意に茅野雄の記憶の中へ、従妹の浪江から送り来された、書面の文句が甦えって来た。
(父も母も無事でございます。でも性質は変わりました。敵を持つようになりました。只今私達の一族は、苦境にあるのでございます。どうぞどうぞおいでくださいまして、私達一族の味方となって、私達をお助けくださいませ。――そうだ、こんなように書いてあった。その敵というのがこ奴らなのであろう)
「だが何故俺を殺そうとするのか?」
(俺が叔父達の一族だからであろう)