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しょうがいのかきね

生涯の垣根

室生 犀星

「新潮」1953(昭和28)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,267 字 · 22 页

青空文庫

若い女中が彼のことをあんなに家にばかりいて、なにが愉しくて生きているんだろうと、裏庭を掃きながら言っていたが、一人の女中はあれでも何か愉しみがあるのよ、庭でしょうさといって笑った。彼も書斎にいてそれを聞いてひとりで笑った。つまり彼に最後にのこったものはやはり庭だけなのだ、終日掃きながら掃いたあとのうつくしさが見たいばかりに、そのうつくしさに何かを、恐らく一生涯の落ちつく先をちらとでも見たいのだ、ばかばかしい話だが、そんなふうに言うより外はない。一生涯の落ちつく先を土に見たって何になるといえばそれまでだが、掃いたあとを見かえると、いままでにないものが現われている、毎日掃くのだから落葉とかゴミとかいう些細な固形物すら見当らないのに、やはりよごれがあった。その眼にとまらないものを掃き上げると、そこからべつな澄んだ景色が見えて来ていた。彼はその景色が見たいばかりに掃くのだ、いやなことを心にためておくと、どうにも心の置場のないような不愉快を感じるが、それを書いてしまうとさっぱりする、さっぱりした心持で何かをあらたに受けいれようとする構えに、するどい動きとも静観ともいいがたいものがある、あいつだよ、あんなふうなものが掃いたあとの、土の上に見られるのである。