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しょうがいのかきね
生涯の垣根
室生 犀星
「新潮」1953(昭和28)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,267 字 · 22 页
いろいろなものに取り憑かれ、さまざまなものに熱中して見たが、行きついて見るとつまり庭だけが眼に見えて来ていた、朝起きてから夕方まで眼の行くところは庭よりほかはない。ある意味でそれは庭であるよりも、一つの空漠たる世界が作り上げられていて、それが彼を呼びつづけているのだとでも、ふざけて言ったら言えるのだろう。
彼は猫が庭に出ると叱って趁った。猫は庭で過って蝶とか、とかげなぞ趁うと、土の上に爪あとをのこした。猫の爪あとは土をかみそりの刃のようにほそく切り、あとで土をあてがってなおそうとしても、切れ傷は深くのこった。だから猫が庭に出ると彼は縁側に出て、えたいの判らない言葉で呶鳴った。えたいの判らない言葉はえたいのわからないままに、猫は叱られたことを意識に入れた。だから彼の家の猫は庭に下りられぬものに心得、庭では垣根にそうたすみずみをつたって歩き、決して広場の土のねているなめらかな処を通らなかった。猫が庭を歩いてはならぬきまりをつけたのも、彼だったのだ。もちろん、植木やは彼の庭でしごとをする前には、庭の入口で地下足袋を脱いで、裏にもようのない足袋にはきかえねばならなかった。