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たはらしのはんざい

田原氏の犯罪

豊島 与志雄

「黒潮」1917(大正6)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页

青空文庫

六

それから急に庭の隅々を透し見た。何だか人の気配がしたようであった。然し其処には誰も居なかった。ただ植込の下影が、脅かすように真暗であった。

田原さんは庭の中を歩き出した。そして暫くすると、彼はいつのまにか、良助が寝ている玄関横の四畳半の戸口に近寄っていた。そして彼はその戸口から耳を澄した。戸は閉め切ったままで、中からは何の物音もしなかった。

時間が静かに過ぎていった。

と突然田原さんは一歩退った。そして急に我に返ったようにあたりを見廻した。頭が硝子のように恐ろしくはっきりしているのを彼は感じた。それから何かに対して身構えるかのように、彼は両肩を後ろに引いてしかと拳を握りしめた。

彼はそのままの姿勢で、また座敷の庭の方へ戻って来た。それは上半身だけが物に慴えて硬ばったようなおかしな姿だった。先刻開け放したままの戸が一枚、ぽかりと口を開いていた。彼はずっと其処にはいって行った。

六

八月のじりじりと輝りつける或る日の午後、一群の野次馬が一人の巡査と泥酔の男との後について、ぞろぞろと田原さんの家の前までやって来た。炎熱と埃と汗の匂いが、一時にその閑静な通りをざわつかした。