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たはらしのはんざい

田原氏の犯罪

豊島 与志雄

「黒潮」1917(大正6)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页

青空文庫

そしてそれに身をうち任していると彼はそよそよと微風が自分の上を流れてゆくのを感じた。その時には彼は再び眼を開いていた。開け放した二階の室から、庭の木立の梢が見える。緑葉がちらちらと動いている。その向うに青い空が在る。空の中にぽつりとち切れた雲が一片浮んでいたが、それがすぐに蒼空の奥に消え去ってしまう。それが如何にも静かである。静かでありながら如何にも雄大な推移である。雄大な推移でありながら如何にも頼り無く佗びしい。雲の消え去った大空から、生温い微風が流れてくる……。

彼は毛布を足先ではねのけて、枕の上に半身を起してみた。それが非常な努力に感じられた。そして両手を伸すと共に、大きく欠伸を一つした。その欠伸が彼にはっきり胸の空虚を感じさした。何かが自分のうちから掴み去られたがようであった。全身の筋肉がぐたりとしていた。それが如何にも静かでそして頼り無かった。その時彼の心のうちに懶い憂欝が濃く澱んで来た。

彼が見たのは、大自然のうちに流るる静かな推移でもなかった。大空の下に置かれた人生の卑小でもなかった。然しあるがままの生の懶さ淋しさであった。それは、「今日もまた暮れた、明日もまた明けるであろう、」