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いなかいしのこ

田舎医師の子

相馬 泰三

「早稲田文学」1914(大正3)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页

青空文庫

た友達が都合四人できてその人達とよく他人に隠れてその浴室の大鏡の前へ並んで立ったという事や、それから、やはりその中の一人で寺本さんという人が巻煙草をすう事が好きで、それが舎監に知れやしないかとどんなに心配していたかという事や、そんな数知れない多くの事を語った。語り終った後になって、彼女は、「それにしても、あんまり何もかも話し過ぎた。」と思った。が、また、「やっぱりこの方が良いんだわ。そして一時も早くすっかり兄さんと親しくなってしまわなければ……。」こうみずからそれを打ち消した。そして、

「兄さん! 妾、もうこれですっかりだわ。この外にはもう何んにも云う事なんかないわ。――あるかも知れないが思い出せないわ。」と云って、少し羞かしそうに、しかしいかにも満足そうににっこりした。

その日の午過ぎ頃、庸介の父は、その日の最後の患者であった中年の百姓女の右の乳の下の大きな腫物を切開して、その跡を助手と看護婦とが二人がかりで繃帯をなし終えるのを見ると、急いで外科室を出て来た。そして白い手術服を着けたままで、医院の方の応接室で庸介に遇った。

久しぶりの対面なので、おたがいに何と云っていいか適当の言葉を見出せなかった。