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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
……そして俺の一生は終ってしまうのだ。」
こうも思われた。つまらない生存だと思った。つくづくと世の中が味気なく感じられた。幾度となく大きな溜息を洩らしたりしているうちに、淋しい冷たい涙がいつか彼の両方の眼に浮び出て来た。……
健康は間もなく回復された。雨は高く霽れ上った。しかし彼は何かおびただしくがっかりしたようで、それからというものは仕事の方に少しも興が乗って来なかった。「何故にかく物淋しいあじきない世の中であるか。」そんな、とりとめもない思いが何日までも続いた。それでいて、どこか底の底の方では、「俺にはようく解かっている事があるのだ。……ただそれは口に出して云えないだけだ。」と云ったような一種もどかしいような一種くすぐったいような心持ちがおどんでいた。
「自分には、ほんとに思い思われるという仲になった人が一人も無かった。――この事は自分のこれまでの生涯にとって何よりもの大きな不足に相違ない。それが欠けていたばっかりに、俺のこれまでは無かったも同じようなものになって仕舞ったのだ、否、ほんとにそれよりも悪いのだ。……」
自叙伝は、ほんの少し書き出されただけで放ってあった。