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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
あとを続けようとして机に向っても心はいつもあらぬ事にのみそれて行った。ある時、ほとんど二時間近くも一字も書かずにぼんやり考え込んでいたのち、とうとう次のような事を原稿紙に書き出していた自分を見出したのであった。
おゝ、美しき黄昏よ。
お前は、私に何をしようとしているのだ。
それでなくとも、長い長い
悩ましさのために、
疲れ果てている私の魂は、
どんな小さなかどわかしにも
従うだろうものを。
………………………………
庸介は、自分の思いがいつからとはなしにお志保の方へ引き寄せられていたのを知っていた。それにしても、かほどまでに彼女の事が自分の心に深く喰い入っていようとは知らなかった。彼女に対してしようとしている自分のある企てが、かくまで執ねく自分を掻き乱し、悩ましていようとは思わなかった。
十一
裏門に近い所に一つの粗末な小屋があった。そこへ藁がたくさんに入れられてあった。それからその一部分がちょっと片附いていて、そこへ、一年中ついぞ使う事のないような雑具が納いこまれてあった。めったに用もないので常には家の人達からまるで見捨てられているような所であった。入口が横に附いていて、そこへ出入りするに、その姿を他人から見られまいとする位の事はきわめて容易であった。