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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
それにその裏手が、梨だの桃だのの苗木が植えつけられてあり、なおそれに続いて荒れた雑木林があって、そこには食べられる小さな茸があったりした。そんな工合で、その辺から誰かがひょっこり出て来たからとて、それは少しも可怪しく思われるような事もないのであった。
庸介は、ずーっと前から、そこに深く心を寄せていた。
入口の戸がいつも半開きのままに打ち捨てられてあった。彼は時々ここへそーっと一人で忍び込んで行った。昼間でもその中は薄暮のような光しか無かった。頭の上へおっかぶさるように藁束が堆く積み重ねられてあった。すかすかするような、それでいて馬鹿に甘ったるい乾藁の蒸れる匂いがいつもむんむん籠っていた。屋外の苗木林で、木の葉がそよ風のためにひらひらと裏返えしにされるのや、やがて枯れてからからと散ってゆくさまやが、戸のすき間から覗かれた。
彼は、小半時間もそこから出て来ないような事もあった。そして注意深くあたりのようすをうかがっていた。また、どうかすると、藁束に身を靠せかけたままいつか心持が重くなってついうとうと転寝の夢に入るような事さえもあった。それにもかかわらず、これまでについぞ一度、物に驚かされたという事も無ければ、近づいて来る人の足音さえも聞かなかった。