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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
「それよりも、お母さんをすぐに呼んで来てあげよう。ね、すぐに来るから。」こう云ってそこを走り出た。
父も、母も、一同が房子の枕元へ集って来た。房子が、やがて、
「もう、すっかり良いようよ。妾、大変にのどが乾いたから何か飲むものを少し頂戴な。」
こんな事を云い出したので、みんなすっかり、楽っくりして悦こんだ。病人がしきりに事のおこりを聞きたがるままに、母がそのあらましを話してやった。房子は熱心にそれに聞き入っていたが、急に、酷くふさぎ出した。それからやや長い間何か深く考えこんでいるようすであったが、急に、いかにも絶望的な声をあげて泣き出したのであった。誰一人としてその意味がわからなかった。いたずらにまごまごして彼女の背中を擦ってやったりするほかになす術も知らなかった。
幾日も房子の容態ははかばかしくなかった。彼女は、誰が何と云っても黙りこんで重く欝いでばかりいた。時々いかにも堪え兼ねたと云ったように、わあと急に泣き出したりするのであった。
房子は、自分の身体の所々に痛みがあるように覚えた。それは、みんな「あの時」のが残っているのだと思った。そう思うと一切がそんなふうに意做されて行った。