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こうしゅうぐんないようかいじけんとりしらべほうこく

甲州郡内妖怪事件取り調べ報告

井上 円了

「東京朝日新聞」1894(明治27)年5月8、9、11、12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,934 字 · 18 页

青空文庫

という。これ、郡内におこりし妖怪事件の大略なるが、これを約言せば、この怪事は形体なき無形の怪物が、空中に口笛のごとき怪声を発し、かつ種々の怪事を営むものにほかならず。もし、このこと果たして真実ならば、実に奇々怪々、不可思議千万といわざるべからず。

この一大怪事を研究せんには、まず第一に、その地方の者が、この怪事につきていかなる想像を有しおるかを知るを要す。これをもって、予は諸人のいうところを集めしに、およそ左の諸説に過ぎず。すなわちある者は、従来久しくその家に養われおる女子(年齢十八、九歳)に、狐狸もしくは蛇の類が付して、かくのごとき怪事をなさしむるならんと想像せり。また、ある者はいえらく、かつてその女に通じおる男子ありて、その男子の平素信仰せるところの狐が、かかる所業をなすものならんと。また、あるいはその女子をもって、ただちに狐憑き患者もしくは魔婦のごとくに考うる者もあり。しかのみならず、その地方において方術もしくは祈祷を専務とせる者さえ、またこれを狐憑き、狸憑き、もしくは蛇憑きの類ならんといえりとぞ。これらの説、互いに多少の相違あれども、帰するところは、その女子になにものかが憑付して、この怪事をなさしむるものというにほかならず。