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とめさんとそのおんな
留さんとその女
山本 周五郎
「アサヒグラフ」 1935(昭和10)年9月4日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,799 字 · 14 页
客がすっかり帰ると、――しかしそれはたいていの場合しらじら明けであるが、留さんは女房に与えられている三畳の蒲団部屋へ入って寝る。もちろん、一番の蒸汽のエキゾスがぽんぽんと鳴りだすまでほんのわずかしかまどろむ暇はない、そして女房が店の掃除をしたり洗物をしたりして寝に来るのは、きまって留さんが起きだして行った後であった。
このあいだに、――
一方では女の秘密が探りだされていた。それまでもたびたび、彼女はどこかへでかけることがあった。誰にでも外出の用はあるものだ、ことに彼女は亀山の近くに親戚があるというから、二度や三度泊ってくることがあっても不思議はない。
「ところがたいへんな親戚だ」
秘密を嗅ぎ出してきた十六歳の幸保が云う。
「相手は畳屋の職人で、まだあの女が潮来で稼いでいた頃の馴染なんだ。夫婦約束をしたのは留のほうではなくて、じつはその畳屋の職人だった。ところで年期が明けて来てみると、そいつは住込職人で女と世帯をもつことなどはできない、――第一そいつは女のことなんか屁とも思っちゃいねえんだ」
「その畳屋ってのはどこだ」
「栗橋の山形屋の向隣よ」
「へえ……」