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とめさんとそのおんな

留さんとその女

山本 周五郎

「アサヒグラフ」 1935(昭和10)年9月4日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,799 字 · 14 页

青空文庫

みんなは眼を剥いた、「それじゃあ、留の借りていた家の五六軒先じゃねえかよ」

「女に来られて」

と幸保は続けた、「そいつはすっかりとほうにくれたんだ、そこでうまいこと云って騙しにかけた、――三年経てば店を出してもらえる、だからそれまでなんとか待っていてくれろってな。女は困った、けれどそのとき留のことを思い出したのよ、ひでえ阿魔さ……気の良い留が三十五号船にいるのを探し出して、約束だから夫婦になってくれともちかけたんだ。そのじつ三年経てば畳屋の職人と一緒になる気でいる、だから留の貯金をくすねたり、高浦食堂で稼いだ金はみんなそいつのほうへ注ぎこんでいるんだ」

こんなからくりは珍しいことではない、我々の身辺にはもっともっと辛辣な悪どい欺瞞や詐偽が網を張っている、ただそれが美しい修辞法で巧みに蔽われているだけにすぎないのだ。――それにしても、なんと複雑な工の綾であろうか、

「それじゃあ」

と誰かが云った、「ときどきあの女がどこかへ行くのは、そいつと逢曳をするためだな」

「栗橋の百姓家はまだ空いているからなあ」

彼らがこんな話をしていたとき、――高浦食堂の一室では留さんが馬鹿踊を踊っていた。