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うみがめ
異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二
岡本 綺堂
岡本綺堂『異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二』。同一底本的分册已合并为一书。收入:海亀、鴛鴦鏡、鐘ヶ淵、こま犬、水鬼、指輪一つ、離魂病、木曽の旅人、西瓜、白髪鬼、百物語、妖婆、停車場の少女。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 144,507 字 · 291 页
すると、その日も市野さんは来てくれないので、わたくしはいよいよ焦れったくなって、いても立ってもいられないような心持になってしまいました。
今考えると、まったく夢のようです。日が暮れて行水を使って、夕御飯をたべてしまって、店の先にぼんやり突っ立っているうちに、ふと胸に浮かんだのは、もしや市野さんが夜釣りに来ていやあしないかということで、おととい来たときにどうも近頃は暑いから当分は夜釣りにしようかと言っていたから、もしや今頃出かけて来ているかも知れない。そう思うと糸に引かれたように、わたくしは急にふらふらと歩き出して、川の堤の上まで行ってみると、その晩も今夜のように真っ暗で、たった一人、芒のなかに小さい提灯をつけている夜釣りの人がみえたので、そっと抜足をして近寄ってみると、それはまるで人ちがいのお爺さんなので、わたくしは無暗に腹が立って、いっそ石でもほうり込んで驚かしてやろうかとも思ったくらいでした。
仕方がないから、またぼんやりと引っ返してくると、堤のなかほどでまたひとつの火がみえました。今度のは巡査が持っているような角燈で、だんだんに両方が近寄ると、片手にその火を持って、片手は長い釣竿を持っているのは……。