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うみがめ
異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二
岡本 綺堂
岡本綺堂『異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二』。同一底本的分册已合并为一书。收入:海亀、鴛鴦鏡、鐘ヶ淵、こま犬、水鬼、指輪一つ、離魂病、木曽の旅人、西瓜、白髪鬼、百物語、妖婆、停車場の少女。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 144,507 字 · 291 页
海亀
一
「かぞえると三十年以上の昔になる。僕がまだ学生服を着て、東京の学校にかよっていた頃だから……。それは明治三十何年の八月、君たちがまだ生まれない前のことだ。」
鬢鬚のやや白くなった実業家の浅岡氏は、二、三人の若い会社員を前にして、秋雨のふる宵にこんな話をはじめた。
そのころ、僕は妹の美智子と一緒に、本郷の親戚の家に寄留して、僕はMの学校、妹はA女学校にかよっていた。僕は二十二、妹は十八――断って置くが、その時代の若い者は今の人たちよりも、よっぽど優せていたよ。
七月の夏休みになって、妹の美智子は郷里へ帰省する。僕の郷里は山陰道で、日本海に面しているHという小都会だ。僕は毎年おなじ郷里へ帰るのもおもしろくないので、親しい友人と二人づれで日光の中禅寺湖畔でひと夏を送ることにした。美智子は僕よりもひと足さきに、忘れもしない七月の十二日に東京を出発したので、僕は新橋駅まで送って行ってやった。
言うまでもなく、その日は盆の十二日だから草市の晩だ。銀座通りの西側にも草市の店がならんでいた。僕は美智子の革包をさげ、妹は小さいバスケットを持って、その草市の混雑のあいだを抜けて行くと、美智子は僕をみかえって言った。