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うみがめ
異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二
岡本 綺堂
岡本綺堂『異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二』。同一底本的分册已合并为一书。收入:海亀、鴛鴦鏡、鐘ヶ淵、こま犬、水鬼、指輪一つ、離魂病、木曽の旅人、西瓜、白髪鬼、百物語、妖婆、停車場の少女。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 144,507 字 · 291 页
「なぜ食わない。折角うまい物を下すったのに、なぜ早く頂かない。馬鹿な奴だ。」
「いや、そうお叱りなさるな。小児というものは、その時の調子でひょいと拗れることがあるもんですよ。まあ、あとで食べさせたらいいでしょう。」と、旅人は笑いを含んでなだめるように言った。
「お前が食べなければ、お父さんがみんな食べてしまうぞ。いいか。」
父が見返ってたずねると、太吉はわずかにうなずいた。重兵衛はそばの切株の上に皮包みをひろげて、錆びた鉄の棒のような海苔巻のすしを、またたく間に五、六本も頬張ってしまった。それから薬罐のあつい湯をついで、客にもすすめ、自分も、がぶがぶ飲んだ。
「時にどうです。お前さんはお酒を飲みますかね。」と、旅人は笑いながらまた訊いた。
「酒ですか。飲みますとも……。大好きですが、こういう世の中にいちゃ不自由ですよ。」
「それじゃあ、ここにこんなものがあります。」
旅人は雑嚢をあけて、大きい壜詰の酒を出してみせた。
「あ、酒ですね。」と、重兵衛の口からは涎が出た。
「どうです。寒さしのぎに一杯やったら……。」
「結構です。すぐに燗をしましょう。ええ、邪魔だ。退かねえか。