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いきょう
異郷
寺田 寅彦
「明星 第二巻第六号」1922(大正11)年11月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,712 字 · 8 页
アムステルダアム
日本の歌を聞かせろというので、仕方なしにピアノで君が代のメロディだけ弾いたら、誰かが大変悲しい感じがするではないかと云った。
チンネフ君と一つの室に寝た。室には電燈も何もなかった。蝋燭を消したら真暗になった。ひしひしと夜寒が身に沁みた。チンネフ君はベットに這入ってから永い間ゴソゴソ音を立てて動いていたが、それがどうしているのだか、異国人の自分にはどうしても想像が出来なかった。
翌日はレエゲンシタインの古城を見に行った。ただ一塊りの大きな岩山を切り刻んで出来たものである。何となしに鬼ヶ島を思わせた。囚虜を幽閉したという深い井戸のような穴があった。夜にでもなったら古い昔のドイツ戦士の幻影がこの穴から出て来て、風雨に曝された廃墟の上を駆け廻りそうな気がした。城の後ろは切り立てたような懸崖で深く見おろす直下には真黒なキイファアの森が、青ずんだ空気の底に黙り込んでいた。
「国の歴史や伝説やまたお伽話でもその国の自然を見た後でなければやっぱり本当には分らない。」誰かの云ったこんな言葉を思い出しながら、一行について岩山を下りた。
アムステルダアム
測候所を尋ねて場末の堀河に沿って歩いて行った。