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びょうちゅうき
病中記
寺田 寅彦
1920(大正9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,795 字 · 8 页
吐こうと思う瞬間に吐くものが黒い血だなという予感が頭に閃いた。吐いてみたら黒い血が泥だらけの床の上に直径十センチくらいの円形を染めた。引続いて吐いたのはやや赤い中に何だか白いものの交じったので、前のの側に不規則な形をして二倍くらいの面積を染めた。浅利君が水を持って来たから医者を呼んでくれと頼んだ。吐いてしまったら胸苦しさはなくなったが急に力が抜けたような気がしてそのまま動かずに天井を見ていた。脈摶を取ってみたがたしかであった。なんだか早く宅へ帰って寝たいと思った。宅へ電話をかけてもらおうかと思ったがまあ急く事はないと思ったりした。
そのうちに見知らぬ医者が来た。(後で聞いたら学生監の医者だそうな。)脈を取ったり血を検査したりしたが、別に何も云わないから、自分で胃潰瘍だという事を話して吐血前の容体を云おうとしたが声を出す力がなくて、その上に口が粘ってハッキリ云う事が出来なかった。木下君も来た、金子さんや真鍋さんも来てくれた。杉浦さんが学校の毛布を持って来てくれてその上へねかされた。そのうちに志んがやって来た。志んの顔には驚きと落着きとが一緒になっているように見えた。